よりよい再生環境を作り出すために
その1:個別給電の推奨
アイソレーション・トランスを介在させると、直接給電時よりも整流ノイズ電圧が増加します。その理由は、アイソレーション・トランスが持つコイルの抵抗分などにより、負荷側からみた電源インピーダンスが上がるためであり、そのインピーダンスの上昇分だけ、整流ダイオード導通時の電源電圧変動(=整流ノイズ電圧)が増加するわけです。
アイソレーション・トランスの出力に、電源歪み計測機能付きの交流安定化電源装置を接続し、電源波形の歪みを測ると、大きな歪みが計測されます。これは、先に説明したように電源インピーダンスが上がるために、電源装置そのものが出す整流ノイズ電圧が増えるためです。つまり、自分自身が出したノイズを電源装置が「歪み」として計測してしまうためです。
アイソレーション・トランスの2次コイル(すなわち出力コンセント)を複数の負荷機器で共有すると、このような他の機器が出す整流ノイズが回り込んでしまいます。それは相互に干渉し合い、その結果、再生機器の音質や画質を劣化させてしまいます。これでは、アイソレーション・トランスの効果が十分に発揮されません。このことから分かるように、“1つの出力には1つの負荷機器だけを接続する”という「個別給電」が、アイソレーション・トランスの持ち味を活かすポイントになります。中村製作所が「個別給電」を推奨しているのは、そのためです。
実用例
図5は、2000VAのアイソレーション・トランス『NSIT-2000PlusMarkII』に、オプションの160VAトランスを3つ増設したフル・オプション版を用いた個別給電の例です。
2000VAトランスにステレオ・パワーアンプ、3つの160VAトランスに、それぞれプリアンプ、SACD/CDプレーヤー、フォノイコライザー・アンプを接続しています。1つの出力に1つの負荷機器だけを接続していますので、整流ノイズの回り込みを防止でき、各負荷機器にクリーンな交流電源を供給できます。この時、瞬間的に大電流が流れるパワー・アンプには、大きな電力容量のトランスを用いましょう。パワフルなサウンドを得るためには、消費電力の3倍以上の電力容量を持つトランスを使うことが秘訣です。
メモ
この例では、パワー・アンプに97Vタップを用いています。その理由は、2000VAトランスに消費電力が数百VAのアンプを接続した場合、タップの電圧が規定値より上がり、97Vタップの電圧が、実使用状態でほぼ100Vになるためです。
もちろん、一般的な100V用電気製品は、通常100±10Vの電源電圧範囲で正常に動作するように設計されていますので、100数Vの電圧を出す100Vタップに接続して使用しても、まったく支障はありません。
なお、給電電圧を高めにするとパワー・アンプの瞬時給電能力が強化され、エネルギッシュな音になります。
逆に低めにするとマイルドな音となります。そのため、97Vと100Vのタップを使い分けることで好みの音質にチューニングすることが可能です。このようなことができるのも、『NSIT-2000Plus MarkII』の大きな特徴です。
その2:200V給電によるさらなる音質改善
中村製作所のアイソレーション・トランス群は、一部の低価格製品を除いて「200V給電」に対応しています。つまり、一次コイルの接続を変更することで、100V電源/200V電源のいずれでも使用できる設計となっているのです。
供給電圧を200Vにすると、1次コイルに流れる電流が100V給電時の半分になります。これは、屋内配線の導体断面積を2倍にした場合と同等の効果があり、屋内配線の抵抗分に起因する電源電圧変動や波形歪みを半減させられます。このため、再生音の瞬発力と量感が強化され、より開放的でスケール感のある音質が得られるようになります。
このように音質的に有利な「200V給電」ですが、一般住宅には電柱上のトランスから基本的に100Vの交流が来ています。では、どうすれば200V給電が可能となるのでしょうか?
電力会社から供給される家庭用電源の配線方式は、かつて古い家屋で使われていた「単相2線式」から、現在では「単相3線式」が主流となっています。単相3線式とは、電柱上トランスの2次コイルを200Vとし、中性線と呼ばれるセンタータップを大地アース(0V)することで、200Vラインの片側と中性線から100Vの電圧を取り出す方式です。この単相3線式の場合、配電盤のブレーカーの接続を変更し、200Vラインの両側から線を導き出すことで、一般住宅でも容易に200Vの交流電源を確保することが可能です(交流電源の工事を行う場合は、電気工事士の免許が必要です)。このようにして200V給電が可能な方には、音質を改善できる「200V給電」をお薦めします。
その3:電源対策製品による電源の汚染
交流安定化電源装置やアイソレーション・トランスなどの「電源ノイズ対策品」は、それを通した効果ばかりに目が向けられがちです。しかし、それを通していない機器に与える影響にも目を向けなければいけません。
交流安定化電源装置は、負荷機器に供給する電力以外に、自分自身、すなわち内蔵されているパワー・アンプなどの電子回路に電力を供給する必要があります。そのため、消費電流の増大や、交流安定化電源装置が出す整流ノイズなどにより、大元の電源波形の歪みやノイズは必ず増大します。つまり、交流安定化電源装置を用いて電源を供給した機器の音質や画質は向上しますが、これを通していない機器に関しては、交流安定化電源装置を増設したことにより、むしろ音質や画質が劣化してしまいがちなのです。
それに対して、アイソレーション・トランスには「双方向のバンドパス・フィルター効果」がありますから、負荷機器に大元の電源ノイズを伝えにくくするだけでなく、負荷機器が出す整流ノイズなども電源ラインに流出しにくくするという「電源汚染防止」の効果があります。特にパワー・アンプのように消費電力の大きな機器は、大きな整流ノイズを放出して電源ラインを汚染します。そのような場合にアイソレーション・トランスを介してパワー・アンプに給電することで、電源ノイズが除去されてパワー・アンプの音質が良くなるだけでなく、パワー・アンプから電源ラインに逆流する整流ノイズも激減させられ、アイソレーション・トランスを通していない機器の音質や画質も(電源汚染が減った分だけ)改善されます。
このように、アイソレーション・トランスには、電源ラインと負荷機器間の「双方向ノイズ除去効果」があるのです。そのため、パソコンや家電機器などのノイズ発生源側にアイソレーション・トランスを使用し「臭いものに蓋をする」という活用も、オーディオ・システムの音質改善に、大変有効なのです。
NSITシリーズを正しくお使いいただくために
トランスの出力電圧規定値について
テスターなどでアイソレーション・トランスの出力電圧を測定して、「規定値よりも高い電圧が出力されている」とおっしゃるお客様がよくおられます。そういう方は「無負荷状態」で出力電圧を測定されているようです。
アイソレーション・トランスは、コイルの抵抗分などによる電圧ロスを補うため、1次コイルの巻数よりも、2次コイルの巻数をわずかに多くしています。このため、無負荷時には規定電圧より数%高くなるのが一般的です。つまり、「規定電圧」は「ある負荷電流」を流した時の出力電圧のことなのです。その条件はメーカーにより異なりますが、中村製作所のアイソレーション・トランス群は、「定格の60%負荷のときに規定電圧になる」という設計になっています。
例えば、100Vタップから最大10Aを取り出せる定格容量1000VAのトランスでは、負荷電流が6A(=10A×0.6=60%負荷・入力電圧100V)のときに、100Vタップから約100Vの出力電圧を取り出せるというわけです。
「W」と「VA」の違い~有効電力許容値の計算方法
電力を示す単位には「W(ワット)」と「VA(ボルト・アンペア、またはブイ・エー)」があります。「W」は有効に消費される「有効電力」で、実際に電力量計(積算電力計)でカウントされる電力です。「VA」は電圧と電流を単純に掛け合わせた電力値で、「皮相電力」と呼ばれます。
中村製作所のアイソレーション・トランスは「VA」で電力容量を表記しています。
電熱器のような”純抵抗”の負荷では、電圧と電流の位相が一致しているため、「W」と「VA」は同じ値になります。しかし、コンデンサーやコイル類を用いた機器では、一時的にコンデンサーやコイルに電気エネルギーが蓄積されるため、電圧と電流の位相がずれてしまいます。
このような、一時的に蓄積される電力を「無効電力」と呼び、「有効電力」と「無効電力」を足した”見かけ上の電力”が「皮相電力」というわけです。ちなみに、皮相電力に対する有効電力の割合(すなわち、有効電力を皮相電力で割った値)は「力率」と呼ばれ、先に説明した純抵抗の場合は「力率=1」となります。
無効電力は、機器の動作に寄与しない無駄な電力です。電力量計でカウントされないので、電気代もかかりません。しかし、電源ラインに無駄な電流が流れるため、電流の絶対量が増え、電源波形の歪みや、電源電圧変動量が増えてしまいます。アイソレーション・トランスは、コイルに流せる電流に制約がありますので、容量を「VA」で表記しているのです。
なお、有効電力の許容値(W)は、「皮相電力(VA)×力率」で計算できます。例えば、1000VAのアイソレーション・トランスに力率が0.75のパワー・アンプを接続した場合の有効電力の許容値は、「1000VA×0.75=750W」ということになります。